2.ニューヨークへ
ＮＹ留学へ旅だったカリーマ。ＮＹといえばダンス、というわけでダンススクールのオープン生に。一流を目指すダンサーたちにまじってのダンス生活が始まります。
1988年3月、私は大学卒業後8年間勤めた富士通を退社し、単身ニューヨークへと旅立ちました。会社では先端プロジェクトにも参加し、それなりのおもしろさを感じていたのですが、大企業の中のほんの小さなネジの一本である自分に何か満たされきれないものを感じていました。そこで自分の可能性を追求してみたいと思い、ＮＹの大学に入ることに決めたのです。当時は今と違ってビザの取得も簡単でした。銀行の残高証明をもってアメリカ大使館の窓口で大学に入りたいといえば、自動的に5年間の学生ビザが支給されたのです。
ＮＹに到着するとすぐ大学入学にそなえて英語学校に入りましたが、授業が午前中で終わってしまうので、午後は何か体を動かすことをしたいと思いました。ニューヨークといえばダンス。私は当時、日本公演で大成功をおさめた、ＮＹ一番の黒人中心のモダンダンスカンパニー「アルビン・エイリー・アメリカン・ダンス・センター（ＡＡＡＤＣ）付属学校」のオープン生になりました。
当時はまだ創立者のアルビン・エイリーが存命で、スタジオもブロードウェー45丁目あたりのミンスコフ・シアターの上にありました。体育館ほどもある大きなスタジオが５〜６部屋もあり、1クラス40〜50人の練習生が朝9時から夜9時まで練習に励んでいました。プロクラスだけでなく、初心者にもオープンクラスを多数開放していて、1〜4段階のオーディションなしのオープンクラス、その上にアンサンブルクラス（プロオーディションを目指すために選抜されたダンサーのクラス）、その上が正式メンバーであるエイリー1・2（1軍、2軍）でした。正式メンバーは学校中の人が名前を知っていて、「good morning,David!」などとみんなが声をかけます。特に1軍のダンサーは踊りはもちろん容姿もたいへん美しく、たとえボロボロのタイツ姿でも、たくさんのオーディションを勝ちぬいてきたトップダンサーとしてのオーラを常に発していました。
私は当然、最下位のレベル１に入りましたが、モダンバレエはまったく初めてでまさにド素人。周りはプロを目指す10代の黒人生徒たち。身体能力が違いすぎる感じでした。レッスンも先生が実際に踊ってみせるわけではなく、振付師が言葉で説明するのを理解して踊るという方法。私は当初、英語もバレエ用語もまったくわからなかったので、振付師が説明したことを各々練習してフロアーに出て踊るというレッスンにたいへん緊張し、初めの頃はまるでできませんでした。
しかしＮＹはモダン、ジャズ、バレエの世界最高峰。たとえできなくても、最高を目指している人たちと一緒にレッスンすることに私は満足感を感じていたのです。私はダンスにすっかりハマり、アルビン・エイリー・カンパニーのほかブロードウェー74丁目の「step74」、タイムズスクエアの「ブロードウエイダンスセンター」などでバレエやジャズを学びました。4年目になってようやく自分なりに踊れるようになったときには、たいへんな感激があったものです。この経験はその後の私のパフォーマー人生に大きな影響を与えてくれました。
よく私がベリーダンスを学びにＮＹへ行ったと思われがちなのですが、当時の私はどちらかといえばソウルやファンクといったブラックミュージックが好きで、アラブ音楽にはまったく興味がありませんでした。朝起きるとすぐにFMラジオでブラック専門ステーションを聞いたものです。友達のジハーンとサマーラのすすめで、初心者クラスのある「セリナスタジオ」でときどきベリーダンスを習っていましたが、やはり最初の頃は黒人系のアメリカン・モダンダンスやジャズダンスに夢中でした。ただ、いくら好きでもちっとも上手にならないモダンやジャズより、なんとなく踊れるベリーダンスに手応えを感じるようになっていったのです。
セリナスタジオで中級に進級した頃、エジプト人オリエンタルダンス講師のヨースリー・シャリフのクラスにも通い始めるようになりました。ヨースリーにとって私は初めての日本人生徒で、しかもたいへんまじめにレッスンを受けていましたから、とても気に入られました。当時30代前半だったヨースリーはスリムでハンサムだったので、私も素敵なアラブ人の先生の期待に応えられるように頑張ったのです。
